こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

シャン・チー テン・リングスの伝説 Shang-Chi the Legend of Ten Rings

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2021年 アメリカ作品

監督:デスティン・ダニエル・クレットン

出演:シム・リウ、オークワフィナ、メンガー・チャン、トニー・レオン、ミッシェル・ヨー

 

トニー・レオンがマーベルの悪役でハリウッド進出!ということで見に行ったシャン・チーですが、考えるところ多かったので覚書しておきます。

 

<アジア人のヒーロー誕生>

「ハリウッド映画におけるアジア人のイメージ」という卒論を書いた'90年代前半の状況を考えると、隔世の感がある。ハリウッド映画においては、有色人種を描くプロトコルがかあり、ステレオタイプがあった。

アジア人、中国人に関しては、冷酷な極悪人であったドクター・フー・マンチューであったところから、マーベルを代表するアメリカンヒーロの一人、シャン・チーとなったのである。

コミック上ではすでに1973年に登場しているシャン・チーであるが、トランプ政権から始まったアメリカの分断、BLM、コロナ下でのアジア人差別の中での映画化という意味は大きい。

 

ヒーロにしても、悪役の描かれ方にしても、ステレオタイプではない。自分の弱さ・罪に悩み姿を隠すヒーロー。父と子の葛藤、トニー・レオンの演技が深みを与えているとしても、ウェン・ウーは最愛の人の命を奪われたことに囚われている。複雑で人間的な側面が与えられている。

 

<文化の価値>

ター・ローの村の人たちは、太極拳で体を鍛えている。ウェン・ウーの妻リーも、その姉のイン・ナンも、達人である。

太極拳は、相手を力でねじ伏せるのでなく、相手の力を受けて返す。シン・チーとイン・ナンの手合わせは印象的だ。シン・チーの拳を開かせる(虎口をあける)、イン・ナン。

この映画の中では、型や技は、思い切り劇化されているとはいえ、その文化の価値をステレオタイプの壁を越えて正当に描かれようとしているようだ。

 

<Ethnicity and Nationality>

新たなマーベルのブロックバスターとなり、世界的にも肯定的な批評と得ている”シャン・チー”ではあるが、中国本土の方から見るとまた景色が違う。

シャン・チー演じるシム・リウ自身は中国生まれではあるが幼少時にカナダに移住。カナダで育ち、教育を受けている。CNNの記事によれば彼が2017年のCBC (Canadian public Broadcaster)のインタビューが中国本土の人々の不興をかった。

中国本土の人々にとっては、海外で育ち生活する中国人”Overseas Chinese”は特権階級的であり、欧米的に"whitewashed"された人なのだ。

現政権も党も、海外に居住する中国系の人々について民族と国籍という区切りを見えないようにして、中国への帰属といったことを言及しているようだ。

(CNN Laura He の記事による)

 

アメリカでの受容>

映画の中で、シャン・チーとケイティがカラオケで歌うのは、ディズニーアニメの主題歌であり、イーグルスホテル・カリフォルニアだったりする。

ケイティはアメリカ生まれで何世代か前にアメリカに移住している。彼女の家族のシーンは、「サタデーナイト・フィーバー」の移民家族シーンのように、背景を十分伺わせる。

移民1世世代の祖母がおり、2世の父母は一生懸命働いて、娘を一流大学を卒業させた。にもかかわらずホテルの駐車係をしているケイティ。中文大学の普通語コースで出会った海外で育った中国系の若者たちのように、自分の名前を漢字で書くこともままならず、アメリカ文化をしっかり吸収して育ちながらも、アジア人としての違和感やマイノリティとしての摩擦を感じている。

シャン・チーは中華文化の中で育ったものの、そこを出てアメリカ文化を受け入れながら出自を隠して生きてきた。

いずれにせよ、アメリカ文化を受け入れているということこそが、アメリカンヒーロとしての重要な要素であろう。