「いのちの食べ方」森達也 理論社
近年食に関する関心が高まり、いろいろな本や雑誌の特集が出ている中で、ちょっと興味深い題名で前から気になっていたので読んでみました。“中学生以上すべての人の”という目的で刊行されたパンセというシリーズのなかの一冊で、子供が興味を持って読めるように、わかりやすい文章で可愛いイラストが付いており、漢字にフリガナもふってあります。
今時お肉なんて、今時スーパーでパックに入っている物しか見たことがない人が大半だと思います。お魚なら、お魚の形から料理になるまでを自分の目で確かめることもできますが、牛や豚となると、生きているところからパックになるまでのその中間が全く判らない。作者は知らないことをそのままにしておくことができない性分のようで、だからジャーナリストになったのでしょう。彼が日本の畜産や精肉業界の取材をしたことを基にして、この本が書かれています。“いのち”を食べるということを通じて、と場の状況や歴史や差別問題まで、正確に判り易く書かれています。
この本の内容を通じて、作者は“知らない”とか“忘れてしまう”ことによる、人間の思考停止の問題を何度も繰り返します。人間は、知らなかったり、忘れたりてしまい、どれだけの犠牲の上に地球上に存在することができるかを思い起こすことが出来ないでいます。また、思考停止は差別を生み、戦争を生むのだということを語っています。
お肉の話にもどれば、BSE問題なんかも、本質を“知らない”まま、メディアは受け入れやすい情報を流し、大衆は麻痺して思考力を失っているのではないかと思います。“知ること”によって“思考”し、“責任”を負う。お肉の話ばっかりではなく、当たり前のようなことが、今の日本ではなおざりになっているような気がします。