こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「善き人のためのソナタ」

久々にじわっとくる映画に出会いました。

1984年の東ベルリン。ジョージ・オウエル「1984」さながらの、統制と監視の社会。
国家保安局員“シュダージ”のウィズラーは、劇作家ドライマンと女優クリスタが
反体制的である証拠をつかむために、彼らのアパートの監視を始めます。国家と
社会主義を一途に信じているウィズラーでしたが、2人がが紡ぐ愛情や文学、思想、
音楽にふれるうち、彼自身がに変わっていくことになっていきます。

圧迫感はあるものの静かな映画です。ウィズラーは職業故が、多くを語りません。
しかし、彼が監視から目にすることによって、少しづつ表情を変えていきます。
クリスタもまた、自分のことは多くは語りません。政府高官との、強いられた情事に
心を病み、恋人には言えず、薬に頼る他無い。ドライマンは、自由を愛する芸術家として
他の登場人物よりは語ることが多いものの、クリスタの情事に心を痛めながらも
それを飲み込んで彼女をいたわっている。

冷戦当時の東ドイツを描いた映画はまだ多くはないようです。それにしても、日本で
公開された「グッバイ・レーニン」や「トンネル」とは違い、静かな現実感がある
映画だと思います。多くの東ドイツの人々は“シュダージ”の被害者であったにも
かかわらず、まだその負の遺産から逃れられずにいるようにも見えます。

自分の身を守るために、恋人を裏切らなければならなかったクリスタの運命は
死を選ぶという痛々しい最後をむかえることになりますが、ベルリン崩壊後も
生き延びることとなったドライマンとウィズラーには、“真実”という女神が
静かに微笑み、救われます。ブレヒトの詩の一遍と、映画のために書き下ろされた
ソナタが心に残りました。