こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「慕情」 Love is a Many Splendored Things

 
1955年 アメリカ映画
主演:ジェニファー・ジョーンズ、ウィリアム・ホールディング
 
50年代の香港を見たくて、何年かぶりに映画「慕情」を見ました。
若いころはこんなメロドラマも、スーインとマークの大人の恋愛が
切なくていいなとは思ったけど、この年になるとそして時代も変わって
くると、見方も違うもんである。
 
だってさあ、きりっとした女医さんだったスーインが、中国人としての
自分とヨーロッパ人としての自分の間で葛藤しているわりには、あっけなく
恋愛にのめり込んでいくんだもの。いいのかそれで。
 
この映画、中国人の父とベルギー人の母をもつ作家ハン・スーインの
自伝的小説を原作にしています。最初の国民党軍人夫を国共内戦で失い、
イギリスで医学の勉強をし、香港で医師として勤めたというのは
映画のスーインと同じ。ハン・スーインはその後イギリス人と
結婚、作家として活動。3度目のインド人の夫を亡くしてからは
スイスのローザンヌに住み2012年に死去。
 
ネットで検索していたら、ハン・スーインの若い頃の写真を発見。
この方、やっぱり美しい方だったんですね。境遇とともに、
激動の人生を送られたことに納得。そして、映画はフィクションとはいえ、
こんな美しい恋愛があったとしても納得してしまうのでありました。
 
映画はメロドラマとはいえ、時代を如実に反映しています。
映画上映は1955年ですが、舞台は1948年。国共内戦の状況が変わり
国民党の壊滅は寸前。香港には多くの難民が押し寄せています。
朝鮮戦争の状況も悪化した頃の話。上映当時、冷戦の深まりゆく中
中国をつなぎとめようとする意図が映画の中に見え隠れしなくもない。
 
この頃ハリウッド映画は、多くの海外ロケ映画をヒットさせています。
第二次世界大戦後、「ローマの休日」「旅情」など、強いアメリカが戦争で
疲弊した国でロケを行っています。アメリカ人と異国人の間の恋愛。
どれも、異人種間の恋愛は成就しないというハリウッド映画の不文律は
踏襲していますが、「慕情」のスーインがなんとなく受け身的なところは
半分アジア人である(スーインはEurasianといっていますが)
彼女の身の上にかかわっているような気がするのは考えすぎでしょうか。
 
さて、50年代の香港。映画の冒頭からビクトリア湾を東から臨む
飛行機からの映像が目に入ります。今の海より広い海、狭い平地。
その後のシーンは、スーインが勤めている病院のロケーションや
建物、二人が会う丘の上の木など、地勢的に考えるとありえないし、
あきらかにスタジオ撮影のものも多くあります。でも、香港島の街並みや
港やレパルスベイの風景などは当時現地で撮影したものでしょう。
ファンタジックにも見えますが、今となっては見れない風景がたっぷりです。
 
日本の写真家、長野重一の「香港追憶」という写真集がありますが
こちらも50年代の香港を写したもの。こちらはもっとリアルな人々を
写したもので映画とは対極的なものですが、どちらもその後私が見る
こととなる香港の、ある意味“始まり”を見るようです。
 
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