「ゴヤの名画と優しい泥棒」The Duke 〜 人それぞれにとっての美や価値を考える
- 2020年イギリス作品
- 原題:THE DUKE
- 監督:ロジャー・ミッシェル
- 脚本:リチャード・ビーン、クライブ・コールマン
- キャスト:ジム・ブロードベンド、ヘレン・ミレン、フィィオン・ホワイトヘッド、アンナ・マクスウエル・マーティン
今月のゼミのお題「私にとっての美」を考えるにあたって、人にとって美しいもの、芸術がどんな意味を持つのかの一つのヒントとなっ映画。実際に起きた事件のもとに映画化されています。
- 1961年、世界屈指の美の殿堂、ロンドン・ナショナル・ギャラリーからフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン公爵」の盗難事件が起こった。
- 盗んだ犯人として名乗りを上げたのは、60歳のタクシー運転手、ケンプトン・パントン。どこにでもいる、とても豊かとは言えない家庭の普通の男性だ。
- この絵画盗難の19日前に、サザビーズで14万ポンド(現在の貨幣価値で300万ポンド)でNYのコレクターに落札されたが、イギリス政府が介入しイギリスにとどまることとなった。
- ウェリントン公爵は、ワーテルローの戦いでナポレオンを破った国民的英雄であり、ゴヤはスペインの一流の宮廷画家であり、巨匠である。国、または一部の階級の人々にとっては、流出してしまったら国の威信に関わる大問題だ。
- しかし、ハンプトンにとっては、この絵画にその価値を見出せない。彼にしてみれば、慈善もしないような金持ちの無駄遣いである。盗んだ絵画を人質に、慈善団体に寄付するように脅迫状を書いたのだった。
- 確かにこの絵画、無表情でどこを見ているのかもはっきりせず、ちっとも魅力的な肖像画とは思えない。それについては、ウェリントン卿の人柄・ふるまいのためとか、ゴヤと合わずいろいろあったからという説があるようだ。堀田善衛の評伝にもそのような伝説が描かれているという事だ。*(映画パンフレット上の中野京子の評論より)
- いずれにせよ、ハンプトンや家族にとってはその絵画に対して共感や共鳴、心を揺さぶるものは何もなかった。そこには美を感じさせるものはなかったということだろう。
- 彼らにとって、美しいもの(喜びも悲しみも)は家族であり思い出に関わるものである。
- イギリス人らしい、ちょっとねじれたユーモアあふれるハンプトン。階級や人種が複雑に交わる社会の中で、彼は自分の立場から社会的弱者に対して真っ当な主張をする。
この事件の顛末と、驚きの事実と結末にについては見てのお楽しみにしておきましょう。
https://happinet-phantom.com/goya-movie/