こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「ローグ アサシン」 WAR

昔、“ハリウッド映画におけるアジア人”をテーマに卒論を書いたことがある私にとって、ハリウッド映画の“その後”を見る良い機会となりました。隔世の感とデジャヴを同時に見た思いです。

ストーリーは、サンフランシスコでの日本人ヤクザと中国人組織の抗争とそれを追うFBIの話になっています。「ブラックレイン」で描かれたような日本人ヤクザの世界進出なんて、‘80年代日本が‘ライジングサン’だった時代の幻想のような気がしますが、設定的には未だそのノリです。文化的にはどっぷり日本的(?)で、閉鎖的。今まで数多くのヤクザ役をやってきたであろう石橋凌演じる組長は、日本からあまり出ず、瓦屋根の重厚な家に住み、白砂の上で日本刀を振り回す。バイリンガルの娘をアメリカに置いているっていうのは、今風かもしれません。中国人組織といえば、中国人の置かれる状況が変化したのか、描き方も変わってきました。「イヤーズ・オブ・ドラゴン」で中国人マフィアの切れ者の若き幹部をかっこよく演じていたジョン・ローンですが、すっかりおじさんになって、英語を喋りサンフランシスコの豪邸にすみ白人の妻を持つ、すっかり西洋化されたように見える中国人組織のリーダーを演じてます。

配給会社の親会社に勤めている友達が社内の試写会でこの映画を見て、デヴォン青木やその他ヤクザの日本語のひどさにあきれていたのですが、よっぽど酷評だったのか、上映された映画はそのへんが吹き替えになっていました。ジェイソン・ステイサムが喋る、英語の字幕を見ないと意味が分からない日本語はご愛嬌。

“ヤクザ”vs“黒社会”vs“FBI”という描き方にカリカチュアを感じずにはいられないものの、主要人物の描き方には“日本人”的または“中国人”的ステレオタイプや定石は少なくなってきているとは思います。それでも、細かい背景的なものの可笑しさは、日本人が見ると一目瞭然。中国人が見ても、きっとそういう場面があるに違いありません。中国人組織の人たちって、たまに簡単な北京語・広東語のやりとりがあるものの、殆ど英語喋ってましたけどね。‘ボッカイ’(bustard、クソ野郎)だけは、広東語っていう人もいました。

だいたい“白湯茶房”なんていう名前からして変。白湯出す茶房が高級日本料亭っ?!この名前、中国人が見ると別の意味でおかしいかも。(‘白湯’ってスープのことですから。)で、その茶房の壁に、楷書で“はき溜めに鶴”とか、“下手の横好き”とかと思われる書が掛かっているのが、もっと変。そういう所に掛ける言葉かっ?!


アメリカは様々な人種を抱えた社会のはずですが、そのわりには認識が甘い。とりたてて人種間の軋轢やステレオタイプをあおるような映画になっているとは思いませんが、もうちょっとちゃんとリサーチしてそれぞれのネイティブな人たちが違和感いないような映画作りができないのかなと思います。アジア市場を念頭にいれている映画なら、なおさらでしょう。

そんなことばっかり目に付いて、ストーリーのメーンストリームからすっかりずれてしまいました。ジェット・リーとジェィソン・ステーサムが主人公だってことをすっかり忘れてしまいそうです。ジェット・リーはヤクザと中国人組織の間を蝙蝠のように動き回る、謎の暗殺者。不敵な笑みがカッコイイです。最後FBIのジェーソンとの絡みに、逆転劇が待っています。また、ジョン・ローンの部下役にマーク・チェンが出演。香港映画ファンには嬉しいところです。

最後に字幕について。中国人裏組織の英語表現Triadをそのままカタカナで“トライアッド”ってどうなんでしょう。香港映画の英語字幕には、Triadって訳してることが多いですが、日本人には、漢字のほうがイメージ沸くでしょう。中国人の裏組織は反清復明の組織‘三合会’からきているのですが、それ使ってもよかったかも。組織について詳しくは、ジョニー・トー監督映画「黒社会」をご覧下さい。