こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「呉清源 極みの棋譜」

14歳で囲碁の才能を買われ日本に来日し、戦前戦後に渡って
長らく日本の囲碁界に君臨した実在の人物、呉清源を描いた映画です。
“私の人生には真理と囲碁しかない”という言葉がありましたが、
まさに、それが彼の人生の意味であり、使命だったのだと思います。
激しさも、冷静な判断も、すべて自分の中の宇宙にあり、その表出は
自分の求めたものの先にある。このような人がいるのかと、奇跡でも
みるような思いでした。

監督の田壮壮は、張藝謀や陳凱歌とならぶ中国第五世代を代表する
監督ですが、お金のかかったエンターテイメント大作とは一線を画した
芸術作品を追及している監督です。そんな監督も呉清源と同じ、“求道者”
であり、だからこそ呉清源の人生にひかれたのでしょう。

無駄な動きや音のない、青みがかった映像。天然絵具で描かれた日本画
見るようです。そして、慎ましいけれど心のある生活、ゆったりとした響きの
よい日本語、優雅な立ち居振る舞いなど、今では失われてしまった美しい日本の姿が
描かれています。当時の日本や日本人の姿を、細かくリサーチした上で再現した
そうですが、中国人の監督がこのような日本を描くなんてびっくりです。

映画の冒頭で、90を超えられたご本人とともに、主演の張震が登場しますが
二人の雰囲気がよく似ていることにおどろきます。だからこそ、主演に抜擢された
のでしょうが、それ以上に張震呉清源になりきったのだとも思います。
張震はモデルのような風貌の今時の台湾青年ですが、いわゆる華流アイドル俳優の
ような甘い二枚目風ではなく、かといって香港の俳優のようなギラギラした
感じもなく、大陸の俳優のような泥臭さもありません。でも、一見無色透明のようだ
けれど、他にはない存在感のある俳優になりました。だからこそ、中華系一流
監督さんたちから引っ張りダコなのでしょう。