こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「王妃の紋章」 満城盡帯黄金甲

中国の第五世代といわれる監督たちも、田壮壮監督を除けば、大作志向となっていますね。チャン・イーモウ監督も、例外ではありませんが、最近は豪華娯楽大作と地味目の人情物を交互に取ってる感じです。今回は超が三つぐらい付く豪華版。娯楽路線の「HERO」や「LOVERS」がまだ地味に見えるぐらい。すっごいお金かかってますね。昔のチャン・イーモウ作品が好きな人には、ちょっといただけない映画とは思いますが、人間にはいろいろな側面があると思ってみるといいかもしれません。

赤と金(または黄)が基調の装飾は、これぞ中華。眩いばかりで、クラクラします。そういえば、紫禁城で上映する「トゥーランドット」の演出をチャン・イーモウがした時、強烈な色彩を求めるチャン監督とイタリアの歌劇団側のスタッフとの意見が対立していたのを思い出します。赤と金は、中国人にとっては重要な色なのでしょう。女官の衣装とか、打ち上げ花火とか、ガラスのように張ってある色とりどりの瑠璃とか、歴史的にも技術・物産的にも突っ込みを入れたいところが色々ありましたが、この映画は唐の時代の歴史というよりは、華麗なる中華王朝の理想の凝縮といったものではないかと思います。

何しろ白髪三千丈の世界ですから、ケタが違う。巨大な宮殿で、皇帝とその家族たちの生活がつつがなきよう、大勢の兵士・宦官、女官たちが動き回っている。宮殿の内外に、どうやってて急にあんな沢山の兵士を、どこから連れてきたんだかなあと思うと、あっという間に沢山死んで、敷き詰められた黄色い菊が血まみれの兵士に覆われる。と思ったらあっという間にお片づけされて、何事も無かったようにまた同じだけの黄色い菊の鉢植えで覆い尽くされる。確かに、何万という人間を動かすのは当たり前の世界だったとは思うんですけど、そこまでやるかっという絶対権力による使い捨て感覚を目の当たりにするとびっくりします。

ストーリーは、シェークスピア原案かと思わせる皇帝一家の愛憎物語ですが、いまひとつ腑に落ちず、誰に思い入れてよいのやら。皇帝と王妃がなんであそこまで憎しみあっているのか、すっきり入ってこない。3人の息子たちは、青年にありがちな悩みをそれぞれ抱えてる。一人だけ腹違いの長男(リウ・イエ)は、気が弱く皇帝になる自信がない。おまけに継母王妃と不倫。武勇に優れる次男(ジェイ・チュウ)は、父を尊敬するもののなかなか越えられないことに複雑な感情を抱いているが、母に対する情は厚い。末っ子は、子ども扱いされ認められないという不満を抱えてる。そして皇帝(チョウ・ヨンファ)、過去に多少の悔恨という人間的な部分を残しているとはいえ、最終的に自分の権威と帝国を守るため、血も涙もありません。王妃は、王の陰謀に気づきながらも復讐の機会をうかがっている。シェークスピア的プロットに、中華王朝文化ならではの展開。今の日本人には、捉えにくいのかもしれません。

チョウ・ヨンファ、ここまでの悪役はめずらしいんじゃないのと思いますが、帝国にとって皇帝は絶対権力なのだから、悪役などとは言わないのかもしれませんね。チャン・イーモウ作品久々のコン・リーの演技は鬼気迫るものがありました。彼女も40過ぎて、美しさそのままに貫禄充分になりましたねえ。彼女がチャン監督作品に最後に出演したのは「上海ルージュ」でしたから、もう10年以上も経ったということですね。いろいろあった二人ですが、時を超え、やっぱりこの役は彼女しかいないということだったのでしょうか。リウ・イエは最近クセのある役多くて、面白い役者になったと思います。武道館でのライブを終えたばかりのジェイ・チュウ、俳優としてはちょっと地味かなあ。もうちょっと、剣のアクションみせて欲しかった。最後にかかる曲は彼の“菊花台”です。ドロドロとした悲劇の結末にはミスマッチな曲のような気がしますが…。