こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 There Will Be Blood

初めから、不気味な不協和音が頭に張り付き、言葉はなく、男がただ必死に穴をほる。
映像からは何が起きているかは、とっても明らかなのだが、観客は恐怖と緊張と不安に
とらわれるに違いない。こんな風にに肩の凝る始まりは見たことない。

そして、主人公ダニエル。こんな風に怒りと憎しみだけで生きていける人間も、見たことない。
その怒りを原動力に富を求め、憎しみだけで他の人間と繋がり、破壊していくのだ。
あまりにも極端で、少しの思い入れを許す余地のないキャラクターというのも、見たことない。
こういう人間を、どうとらえていいのか。なぜ、このような人間になったのか。
考える余地はたくさんある。

ひとつだけ理解可能なのは、彼の行動は一貫していて嘘がないということだ。新興宗教
預言者イーライとは対照的だ。だからこそ、ダニエルは社会的には成功し、イーライは
破滅するのかもしれない。

しかし、結局ダニエルは唯一人間的と思われる部分、息子として育てたH.W.のことや
弟と称する男ヘンリーのことで失敗する。元々は彼の欲望達成のためのコマだった
のかもしれないが、愛情を求めた部分もあったかもしれない。結局は、彼が怒りと憎しみでしか
人と関われないような人間であったことが悲劇の原因だろう。最後の"I'm finished."の
言葉が、大きな家に空しく響く。

ある意味で分かりやすく、ある意味で理解不能な人間ドラマ。いろいろ考えて、後に残る
というところがポール・トーマス・アンダーソン監督の意図なのかも。そして、この映画
後に残る人間ドラマの巨匠、故ロバート・アルトマン監督に捧げられている。

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ダニエル・デイ・ルイス。最近は出演作も多くはないのに、強烈に印象に残るような
役をやってます。もともとはいい男系だし(昔、フアンだったのよねー。)、お育ちもいいのに、
靴職人になりたいとかなんとか。この人自身も、ちょっと偏屈な人なのかもしれません。