こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

TIFF 2015 コンペティション部門 「スリー・オブ・アス」


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All Three of Us

2015年 フランス作品
監督:ケイロン
出演:ケイロン、レイラ・ペクティ、ジェラール・ダルモン、ザブー・ブライトマン

フランスの人気コメディアン、ケイロンが自分で自分の父親を演じ
メガホンもとった長編第一作。暗くなってもおかしくない、彼ら家族の
厳しい道のりを、ユーモアと前向きな姿勢で描いていく、素晴らしい物語でした。

イバットは、イランの田舎町で12人兄弟の中で育ちます。反政府運動
興味を持ったため、投獄され7年も投獄されてしまいます。投獄中も
皇帝からのケーキを断ったという理由で独房に入れられ、拷問を受ける。
そんな中、次第に時代は変わっていくのです。

やがてバフラヴィー王朝の皇帝が失脚し、釈放されますが
時代は暗転。ホメイニ師が政権を取ると、また追われる身に。
結局、妻と子供を連れ、イランから脱出することとなります。

彼らの辿ってきた時代は、そんなに昔のことではありません。
しかし、彼らの親・自分達・子供たち、すべての世代が時代の悪夢を
見てきている。戦争経験のない、中年以降の日本人には
とても想像のつかない世界のこと。ましてや、命がけの亡命なんて。
イランの近・現代史に関わる映画を見ると、本当に自分に
見えない世界が見えてきます。

自分では選ぶことのできない、厳しい経験をしたイバットが
フランスに渡ると、荒れた街を立て直す社会活動に関わります。
大勢の貧しい移民の人達が住む街。大人たちも子供たちも
社会になじめず、仕事もままならない。

イバットたちも、そんな人達と同じはず。なぜ、こんな厳しい
経験をして、大変な想いでフランスにたどり着いたのに
自分達のことで精一杯でもおかしくないはずなのに
なぜ、他の人のために活動するのか。

彼は、言います。”彼らは何も持っていないというけれど
自分達でつかみとらないだけ”。イバットの歩いて来た道には
選択の余地もないことが多かったはず。彼から見れば
街の人達には可能性があるのです。

投獄されて酷い目にあったにもかかわらず、たくさんの
むごいことを見てきたにもかかわらず、彼は飄々として明るい。
家族も仲間たちも。最後に暖かい涙が出ます。

ちょうど、本国での公開を11月に控え、プロモーションのために
監督の来日はかないませんでした。でも、この映画、ぜひ日本でも
公開されることを祈ります。