こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「イノセント・ワールド」 天下無賊

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フォン・シャオガン監督は、中国本土ではチェン・カイコーチャン・イーモウを凌ぐ人気の監督なんだそうです。日本での公開作品はあまり多くないので、私も「ハッピー・フューネラル」ぐらいしか見ていませんが、海外で評価を受けるより中国人のドメスティックな笑いをつかむ監督なのではないかと思います。とはいえこの映画、製作は香港・中国、出演者はアンディ・ラウ(香港)、レネ・リウ(台湾)、グオ・ヨウ(中国)など、大陸だけに留まらない汎中華圏の映画なのです。文化や経済は、香港・中国・台湾の区別など、とっくに乗り越えてしまっているわけです。

内容についてあまり前知識なく、映画を見に行きました。最初はどういう位置づけの映画を見てるのか何か絞りきれないような感覚で戸惑いました。最初いきなりスリのカップル、ワン・ポー(アンディ・ラウ)とワン・リー(レネ・リウ)が今時の成金をカモにしてBMWを巻き上げるところは、コメディ映画風。向かった先は、NHKハイビジョン特集で見るような、万年雪を頂く山々を望む中国奥地。荒野を疾走するBMWの姿はまるで、高級車のコマーシャルのよう。色彩豊かなラマ教寺院で必死に祈るワン・リー。一方、寺院の中ではワン・ポーのスリの技を映し続ける。人を疑わぬ純真な青年との出会いで人生との邂逅をするのかと思いきや、長距離列車の中で窃盗グループだの警察官だのが入り乱れた群像劇になるのです。

映像やストーリーのトーンが変わったり、音楽の入りがいまひとつなじめなかったり、めまぐるしいんだけど、徐々に引き込まれていきます。モダンだったり、前時代的だったり、純朴だったり、打算や駆け引き、激しい競争、善と悪が錯綜する。そして、この雑多な人々を飲み込むような広大な台地。この映画の多様性は、中国の多様性でもあるのでしょう。そして、登場人物が流され移動する様も、今の中国なのかもしれません。気がついたときに、最後は胸をキュっと捕まれます。

悲しい結末が待っていますが、青年とワン・リーに救いがあります。全てが終わった後で、ワン・リーが寺院で必死に祈るシーンに戻るところは、日本語の曲の歌詞と重なって切ないです。現在の中国的なるものを語る中に、人間の普遍性を感じることができる映画でした。