タイのベンエーグ・ラッタンラルアーン監督、撮影にクリストファー・ドイル、主演は
浅野忠信という、ボーダレス映画である。この3人が組むのは、「地球で最後のふたり」に
ついで2作目。映画自体も、ボーダレスな感覚になっています。
ボスの妻と関係を持つキョウジ。そのボスに妻の殺害を依頼され実行し、ボスの助けを借りて
船でプーケットに逃亡する。船の上で、ノイのという不思議な子持ちの女に出会う。しかし
プーケットに着くなり、強盗にあう。ボスが頼れといっていたリザードは、実はボス命令で
キョウジの命をねらっていたのだ。一命を取りとめたキョウジは、香港にもどり、復讐を
実行するが...
ストーリーをざっと見ると、ギャング映画かサスペンスかと思うかもしれませんが、そういう
期待はしないほうが良いでしょう。殺人を犯してからの行動を淡々と描いているのです。その間の
気持ちの動きが彼の口からでてくるわけでもなく、ただ彼の動きにその心を読むといったところ
でしょうか。
浅野忠信自体も、決して雄弁な俳優ではないと思います。なんだか彼のしゃべりって、
ボソボソっとしてて俳優っぽくないでしょ。そこがまた、魅力なんだけど。でもその
存在で何かを語る、っていう俳優さんだと思います。
共演の俳優達も、不思議な存在感を持つ人たち。ノイ役のカン・ヘジョンは、韓国女優さんですが
顔が南方系で、なんか“作られた”女優さんと違う、自然な感じがします。「トンマッコル」の
時もそうだったけど、どこか浮世離れした感じがいいです。
リザードの光石研は、怪しく暑苦しい。いつも“たどりついたらいつも雨降り”を絶唱するの
ですが、曲はキョウジとリザードの境遇を語っているのでしょう。
香港のエリック・ツァンは、出番は少ないけど怪しい坊さん役で登場。なぜ頭に血のにじんだ
包帯をしているのか。二度目に会ったときは、腕まで負傷しています。
舞台となる香港・マカオ・プーケットは、海で隔てられているし海で繋がっているとも
いえる。登場人物たちは、海を流れ流れてたどり着き、縁を作ったのでしょう。題名の
「インビジブル・ウエーブ」は、海の波ともとれるし、目に見えない縁とか因果の
波とも取れると思います。キョウジの最後の選択も、その波の中にあったのかもしれません。