こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「出エジプト記」 Exodus 出埃及記

2007年第20回東京国際映画祭 <アジアの風>部門 香港作品 

一昨年の特集企画、昨年の「イザベラ」、そして本年本作品と、三年連続東京国際映画祭で上映されている東京国際映画祭の常連、パン・ホーチョン監督の最新作です。

冴えない中年の警察官(サイモン・ヤム)が、友人のかわりに女子トイレをのぞいた逮捕された男(ニック・チョウ)の取調べを行う。犯人は、殺人組織の証拠をつかむために潜入していたという。しかし、調書が紛失。調書作成しなおしのため再度取り調べを行ったところ、証言を一転させ、性的興味のためにやったのだと言い張る。犯人の態度に疑問を感じた警察官は自ら捜査を始め、浮かび上がってきたのはある組織の存在だった。

ティーチインで、この映画をどういう発想のもとに作ったかという質問に対し、パン・ホーチョン監督は、“学生時代、どうして女性は一緒にトイレに行きたがるのかと疑問に思った。殺人の相談でもしているのかと考えた。”と答えていました。そんなことからこんな突飛な映画ができてしまうんですねえ。女性に恐ろしい目に合わされるといえば、一人の男に二股かけられていた女性が組んでその男に復讐する、「公主復仇記」というパン監督の作品があります。監督って、潜在的に女性が怖いのか、何か怖い目にあわされたことがあるんでしょうかね…。

冒頭の水着で潜水具を身につけた男たちのシュールなシーンは、幼い頃に父親から聞いた話が元になっているとか。「イザベラ」も、主演したチャップマン・トウと、もし自分に自分の知らない子供がいたら、という話から始まったそうです。普段考えてることや身近に起きたことなどから、これだけのストーリーを紡ぎだすわけですから、監督の想像力には脱帽です。

出エジプト記」(Exodus)という題名については、エジプトで奴隷として働かされているユダヤ人をモーゼが率いてエジプトから逃亡するということから、人間が導かれるリーダーを必要としているということからつけたと言っていました。私にはむしろ、“人間がつらい状況から抜け出す、という意味じゃないか”といった広東語の先生の意見のほうがしっくりきます。警官は昇進を阻んだ昔の事件から、警官の妻は自分の受けた傷や自分がしてきたことから、のぞき犯の元妻は自分の今の状況、といった心の煉獄から抜け出るということが、彼らにとってのExodusだったのではないでしょうか。

とはいえ、誰も幸せになれないところが、この映画の奥底にあるおそろしさ。青みの強い映像と、空虚で無機質な空間と、冷たいピアノの音が人間の孤独感を浮き立たせます。幾何学模様の石の壁を持つ警察の取調室からは、「ブレード・ランナー」の取調室が思い出されました。めずらしく中年小男役のサイモン・ヤムと、キモくてあやしいニック・チョウ、怪演です。