こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「リーロイ!」 Leroy

2007年第20回東京国際映画祭 <コンペティション>部門 ドイツ作品

コンペ作品で笑わせていただきました。人種差別という深くてデリケートな問題を、笑いとばしながらも決して軽佻に扱わない、画期的な作品です。

リーロイは、アフリカ系ドイツ人。可愛い白人の彼女ができたのですが、彼女の父親は右翼系議員、兄弟たちはネオナチだったのです。周囲の反対や差別をかわしながら愛を深める二人でしたが、ネオナチの暴力にあい、巻き込まれた彼女が怪我をしてしまいます。

リーロイの父親はアフリカ系で、ちょっととぼけた発明家。母親は白人でリベラルな公務員。リーロイ自身は、ドイツに生まれドイツに育ち、ゲーテとチェロを愛する優等生。自分はドイツ人だと自覚しています。アフリカ系であることには、それほど自覚がなかったようです。白人の彼女ができるまでは。彼女ができて、初めてアフリカ系の人たち、他の移民の人たち、そして彼らをよく思わない人たちのことを意識するのです。

また、彼らの友達も、ギリシャ系だったりイスラム系の移民だったり、ゲイだったりで、それぞれ社会的な悩みを抱えています。これがドイツの現状なのでしょう。そして、ティーンエージャー特有の、一見ばかげた,でも狂おしい悩みもあり。いずれにしても、差別用語と思われる台詞と、先入観を漫画にしたような演出も、面白おかしくテンポよく、なおかつポイントをずらさずに描いています。

社会や彼女や家族と葛藤し、最後は差別主義者たちと全面対決になりますが、オチが傑作。コマーシャリズムにのって歌って踊る、黒人&ネオナチのMTV。それで差別がなくなるんなら、悪くないんじゃない?商業主義の平和利用だあ。

映画を通して、アメリカのソウル系音楽が流れ、リーロイがアフリカ系であることを意識し始めてから洗礼を受けるのは、マーチン・ルーサー・キングマルコムX、「シャウト」などの6-70年代のアメリカのブラック・ムーブメントです。これは実は、アルミン・フォルカース監督の体験からきているそうです。彼は、7歳までをブラジルで過ごし、時にはアグレッシブではあるがフィジカルな愛情表現豊かなブラジルにくらべ、冷たい感じのするドイツ社会になじめなかったそうなのです。彼も、リーロイのように、ドイツ人でありながら疎外感を感じていたのですね。そんな時、父親にテレビを買ってもらいました。テレビの画面の中では、黒人が生活し、ファンキーな音楽にあふれていました。それは、ニューヨークかどこかだったようですが、彼にとっては“ブラジル”であり、“ロスト・ワールド”だったと語っていました。