こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「夜と霧」 天水圍的夜與霧

2009年香港作品
アジアの風出品作品
監督・プロデューサー:アン・ホイ
エグゼクティブプロデューサー:ウォン・ジン
脚本:チョン・キンワイ  脚本監修:アレックス・ロウ
出演:サイモン・ヤム、チャン・ジンチュー、ジャクリーン・ロウ、エミー・チュム

今年の東京国際映画祭では、アン・ホイ Now & Thenという企画で特集が組まれ、
監督のテレビ時代の作品数本と、去年もこの映画祭で上映された「生きていく日々」、
そしてこの「夜と霧」が上映されました。

残念ながら私はこの一本しか見れなかったのですが、映画の後、映画評論家の宇田川幸洋さんと
プレノン・アッシュの代表篠原弘子さんが、アジアの風部門のプロデューサー石川健治さんとともに
QAに登場。今回のアン・ホイ特集にちなんだ話や、‘80年代の香港ニューウェーブ映画の話など、
興味深い話をしてくれました。

アン・ホイ監督といえば、香港ニューウェーブと呼ばれ監督たちの一人です。
その内容は、サスペンスから社会派ドラマまで多様です。その彼女をはじめ、
ニューウェーブの監督たちは、実はテレビドラマ出身の方が多いのだそうです。

香港のテレビは、日本より普及が遅く'60年代にケーブルテレビから始まったそうです。
‘70年代後半、海外の映画学校を卒業して戻ってきた若い世代の人たちが、そのテレビ局で
様々な試みをしながらドラマを作っていた。その流れがニューウェーブとなって
開花したということなのだそうです。そして、テレビ時代の作品原点を探る、というのが
今回の企画になるわけです。

さて「夜と霧」、実はアン・ホイ監督はこちらの映画を「生きていく日々」より先に
企画していたそうです。ただ、内容が重苦しい社会問題なため、なかなか出資が集まらない。
そこで先に、以前に脚本を書いていたものを低予算のデジタル撮影で「生きていく日々」」として
撮影したという経緯があるのです。幸い、「生きていく日々」は2008年に香港で映画賞を獲得。
そのかいもあって「夜と霧」も撮影することができたそうなのです。

悲劇は、天水圍の団地に住む、香港の中年男(サイモン・ヤム)と大陸から来た若い妻
(チャン・ジンチュー)の家庭に起こります。男は定職につかず生活保護を受けており、
子供の学校の費用も払うことができません。やむなく働きに出た妻に対し嫉妬の眼を向け
やがて暴力を振るうようになります。妻は思い余って子ども連れ、福祉施設に逃げ込みますが
夫は執拗に彼女を追ってくる。

この映画を見ていて、その日の朝にテレビで見た、日本の貧困家庭についてのニュースを
思い出しました。この悲劇は香港人の夫と大陸から来た妻、という特殊な事情から生まれて
くるのではないのです。貧困による家庭崩壊、家庭内暴力というのは、貧困層が拡大している
今の日本でも、すでに起きていることなのです。

社会の暗の部分を描いたつらい内容の作品ですが、アン・ホイ監督の演出が光ります。
隙がないストーリーに完璧な演出。引き込まれます。宇田川さんがこの映画を見て“アン・ホイ監督は、
どこまでいってしまうのだろう”と思ったそうです。「生きていく日々」の成功に留まることのない、
また先を行った映画であるということなのです。

サイモン・ヤムの暴力夫ぶりも、鬼気迫る表情も脱帽です。ほんと、いやな男なんだよね~。
この夫。いい人だったこともあったんでしょうけど。男性は、自分の仕事が立ちいかなくなって
自分の場所が確認できなくなったとき、こんな風になってしまうものなのでしょうか。

悲劇の妻チャン・ジンチュー。この人「プロテージ」でも、ヤク中の夫にしつこく
追いかけられて、悲惨な最後を遂げていました。不幸が似合う?女優さんです。

それから、資金集めに苦労する香港映画界で、このような暗い映画のプロデュースをした
香港娯楽映画の帝王ウォン・ジンさんにも拍手をあげたいです。懐が深いなあ。

最後に、石川プロデューサーが、今後も他の監督でこういった企画をしたいようなことを
言ってましたので、来年もまた何かニューウェーブ世代の監督の作品が見れるかもしれません。
楽しみにしてますー。