TIFF ワールドフォーカス部門 「ミッドナイトアフター」
The Midnight After
原題:那夜凌晨、我坐上了旺角開往大埔的紅VAN
2014年 香港作品
監督・脚本:フルーツ・チャン
出演: サイモン・ヤム、ラム・シュー、ウォン・ヤウナム、ジャニス・マン
クララ・ワイ、チョイ・ティンヤウ、サム・リー
夜の旺角。大埔行きの深夜のミニバスに、17人の客が乗り込む。
仕事を肩代わりした運転手、過去を引きずる中年男。
彼女に会えなかった若者。仕事を首になったばかりの女の子。
仕事帰りの中年女性。サッカー観戦の夫婦、チンピラ。ヤク中、
それぞれが、その日の事情でたまたま同じバスに乗り合わせた。
獅子山トンネルを抜けたあたりから、それぞれが異変に気づく。世界から
彼ら以外、人がまったくいなくなってしまったのだ。
なんだか奇妙な話なのだけれど、映画としてのテイストはSFのようであり
ホラー映画のようであり、サスペンスのようでもあり、群像劇、コメディでもある。
実は暗い恐ろしげな話になのに、自虐的およびナンセンスな笑いが
ちりばめられている。香港には、ただ整然と理論的な、または観念的な
だけのSFは向かないのだ。
そうなってくると、混沌としてきて、何が起こるのかほとんど予測不可能。
観客が困惑する中で、話が進んでいくのだ。
17人が乗ったミニバスは、人間社会の縮図の用でもあり、香港の現状を
移す鏡のようでもあり、人間の欲望を表現しているようでもある。
世界からなぜ人が消えてしまったのか、はっきりとは分からない。
でも、なんとでも受け取れるようにも思え、起きるすべてが寓意的にみえる。
どこからか、全員の携帯にかかってきた着信。そこから聞こえた暗号は
David BowieのSpace Oddityの歌詞。
I'm sitting in a tin can. Far from the world.
The planet earth is blue and then nothing I can do.
そう、17人の乗ったミニバスは、Major Tom の宇宙船。
世界から切り離されて漂っている。それが今の香港なのかもしれない。
「メード・イン・ホンコン」「リトル・チュン」などでおなじみの香港
こんな、なんとも不思議にタイムリーな問題作でありました。
ベテラン俳優たちの演技は秀逸。サイモン・ヤムの品のない男ぶり、
ラム・シューのお調子者な博打好き、サム・リーのぶっ飛びぶりは凄いです。
あんな空っぽの香港、どうやって撮影したのか、なぜタイムスリップしちゃったのか
原発事故なのか、伝染病なのか。防護マスクの日本人は....?いろんなことを
監督に聞いてみたかったんだけど、2度の上映ともQA はなかったようです。残念!