こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「こわれゆく世界の中で」 Breaking and Entering

イメージ 1

この映画、いろいろな見方ができると思います。多民族社会ロンドンの問題。親子の問題。男と女の問題 etc.。私は、現代社会におけるコミュニケーションの問題として見る事ができました。

長年の恋人と娘の間に深い溝を感じるウィル(ジュード・ロウ)。その恋人(ロビン・ライト・ペン)は、適応障害の娘に対しする罪悪感を抱え込み、恋人に心を開けない。サラエボから来た母(ジュリエット・ビノシュ)と息子も、心の中に癒されない深い傷を負っている。登場人物は皆愛と理解を求めながらも、自分が抱える問題の殻に閉じこもる。それぞれが言葉を発しながらも、本音をストレートに言うことは無く、発した相手には伝わらない。そして、少しづつずれた意図がだんだんと大きくなり、お互いを傷つけることになってしまう。

人間は言葉があるはずなのに、分かり合えないのはなぜか。求め合っているのに、傷つけあうことになってしまうのはなぜか。そんなことを考えさせられます。コミュニケーションや心理学、恋愛マニュアルなどには、人間の本質から小手先の策まで、いろんなことが書いてあります。確かにそれは事実を写しているし、現代社会に生きる人々はもっと知らなければいけないことなのかもしれません。コミュニケーションの方法が分からないからこそ、人と人の間に悲しい事件がおこるのだと思います。でも、本当のところ、これだっていう教科書はなく、痛みの中で自分で考えて選択していかなければならないのです。

ウィルの新しいオフィスに起きた盗難事件が、それぞれが持つ殻を壊していく結果となります。原題の“Breaking and Entering”は、両方をあらわしているわけですね。邦題も安易にカタカナを使うので無く、考えられてつけられていると思います。文学的な作品には、文学的なセンスが必要ですね。

殻に閉じこもった心に、外からやすりをかけられる感覚っていうんでしょうか。痛いですが、最後に望みがあります。最終的には、大きなってしまった傷は、自分で血を流さないと解決しないのかもしれません。人間の微妙な心の動きを見せた、大人の映画です。