こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「アイ・カム・ウイズ・ザ・レイン」 I COME WITH THE RAIN

2009年 フランス作品
監督・脚本:トラン・アン・ユン
出演:ジョシュ・ハートネット木村拓哉イ・ビョンホン、トラン・ヌー・イエン・ケー
   ショーン・ユーイライアス・コティーズ

うーん、これはどう取ったらいい映画なんでしょう。日米韓国(おまけに香港)の
イケメン俳優が出演していることで話題となっておりますが、トラン・アン・ユン監督ですから
解りやすいエンターテイメントではありません。アート系と思いきや、猟奇的サスペンス。
心の苦痛と思いきや、肉体も痛い。宗教的ですらある。こういう映画、と限定できないのですが
掴みどころがないわけではない。場面場面が、強烈に印象的です。

一つ一つの画像が印象的なのは、いままでのトラン監督の作品と同じ。ストーリーより
映像が頭にのこるのです。「青いパパイヤ」の静かさ、「シクロ」の暗さ。清濁両方それぞれの
強烈な印象。

それから、ある種の執拗さを感じます。いろいろな形で繰り返される試行。思い起こされる
記憶。一つの映画の中でもあり、べつの映画へと飛び越えて繰り返されるものがある気がします。
繰り返されるからこそ、何度も考えてしまう。そんな感じ。

というわけで、出てくる登場人物もなんだか執拗なところがあります。心の傷、心の溝を埋めるために
何かを追い求めるようであり、それは自分の傷を舐めるようでもあり、傷口を広げるようでもある。

刑事時代に連続殺人鬼に関わって心を病んでしまったクライン(ジョシュ・ハートネット)も、
冷酷な暴力で成り上がってきたス・ドンホ(イ・ビョンホン)がリリ(トラン・ヌー・イエン・ケー)に
執着するのも、人を助けるために自分がその傷を負うシタオ(木村拓哉)も、どこか同じように
執拗さがあるのです。そして、その3人それぞれの心の傷が、3人を結びつける。
最後は崇高なピエタを俯瞰して見るようです。

この映画、好き嫌いははっきり分かれるとおもいます。水曜レディース・デーに見に行ったので
9割がたが一定の年齢以上の女性たち。笑わないビョン様と、過剰な暴力と、気味が悪い映像に
皆様何を思ったことでしょう。ジョシュ迷の若い女の子は、あんな姿をみてびっくりしたのでは。

でも、3人の俳優は、それぞれ良い演技をしていたと思います。特にジョシュ。見直しましたよ。
いままで地味な若手俳優という印象でしたが、演技派なんです。殺人鬼前と後では、はっきりその顔が
変わっているのがわかります。顔に似合わず、ミケランジェロの彫刻のような、ごっつい肉体もすてき。

ビョンホンは、怖すぎです。笑わないその顔も、作り上げたその肉体も。木村拓哉は、
TVで見るような“キムタク”でない、謎の多い神がかった男、シタオになりきっています。

それから、ショーン・ユーが出ているのが日本ではちっとも話題になっておりませんが
しっかり映画に絡んでいます。本当は、ダニエル・ウーにオファーされた役だったらしいけど。
ジョシュを除き、英語のセリフ、一番多いんじゃないのかなあ。

おまけに、サム・リーも何かに取りつかれた男で登場してます。そのほかにも、香港映画で
お馴染みの面々がちらほら。香港の街も、いつもとは違うざらっとした重たい色で見ることが
できます。香港好き・香港映画好きの人には、別角度からもお楽しみください。