こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

クラッシュ

L.A.に行ったことがないのでこんな緊張感は知らないし、人種的混沌も肌身で感じる事も
できないが、なんと厳しい世界に生きているんだろうと思う。お互いが、別の立場や
人種の人々の事を知らず、知る事もできず、知ろうともせずに生きている。同胞や
家族でさえ、分かり合えないのだ。それぞれが、現実の厳しさやフラストレーションを
抱え、それを他人にぶつけずにはいられない。そしてその怒りのために、周囲の人々に
恐怖を感じながら生きているのだ。

黒人の若者は、自分たちが置かれた立場について雄弁にかたりながらも、とって
つけたようにWASPカップルを脅して大きなSUV車を強奪する。ヒスパニックの錠前屋は
マジメな職人であるにも関わらず、その容貌に対する偏見の暴言に耐えなければならない。
イラン人の男はアラブ人であると誤解され、英語も充分に理解できず、被害妄想に陥る。
黒人の刑事やプロデューサーは、自力で這い上がって来たにも関わらず、家族や仕事のことで
いまだに心無い仕打ちにであいつづける。白人警官は、Poor Whiteである父親が受けた
仕打ちのために、マイノリティーに差別的な態度をとり続ける。そんな相棒を嫌悪する、
良心のある若手警官もいやおうなくこの社会に引きずり込まれていくのだ。

大勢の登場人物が、すこしづつ関わり合いながらいくつかのストーリーが展開する、
群像劇。関わりあいの中で悲劇や幸運や救いが生まれる。L.A.に雪が降ることなんてあるか
どうか解らないけど、雪が浄化のイメージだとすれば、本当に現実に直面している人たちに
とっては、甘い展開なのかもしれない。でも、この映画、マイノリティーの映画監督
による告発映画ではなく、スコットランド系の白人監督によるものだという。こちらから
の切り口で真正面から描いた人種問題の映画っていうのは、今まであまりなかったのでは
ないだろうか。