こぶー休息中!

引っ越して来ました。おばブーの旅(主に香港)と映画の日々。

「些細なこと」 破事兒

[アジアの風]部門 10月19日上映

2007年香港作品
監督・脚本:パン・ホーチョン 製作:チャップマン・トー
出演:イーソン・チャン、チャップマン・トー、ジリアン・チャン、クリスタル・ティン

毎年恒例となっている、パン・ホーチョン監督作品。今年も意外性たっぷりの映画を見せてくれました。パン監督が自分で書いた愛情と性に関する短編小説から、気に入ったストーリー7編を選んで映像化。それぞれのストーリーがユニークに仕上げられています。

パン監督の映画、東京国際映画祭では去年の「出エジプト記」、一昨年の「イザベラ」、その前はパン監督の特集が組まれたこともあり、毎年のようにお目にかかれる監督です。一般的な香港映画のイメージとはちょっと別の場所に位置し、身近なところにある自らの世界を個性豊かに表現できる、作家性のある監督だと思います。ティーチインでは、毎年“いつ日本で見られるか”の話題が登りますが、未だ日本では一般上映がありません。監督によると「AV」という作品を買ってくれた日本の会社があるみたいですが、今のところどこの映画館にもかからずじまいになっており、おまけに担当者のかたがお辞めになってしまうらしく、悲しいことになっているようです。

映像にして語るに充分な個性とアイデアを持っていて、小説を書くように“些細なこと”でもリアルに面白おかしく皮肉たっぷりに見せてくれる監督。“最近香港の映画が面白くなくなった。なぜなら、皆中国本土を向いて作っているから。だから、自分は自分が面白いと思うものだけを作ることにした。”と語っていました。だからこそ個性的なのではありますが、ともするとtoo localな内容に見えてしまい、日本上映で一般上映するには難しい作品になってしまうのかもしれません。一つ一つのテーマは普遍的なものだとは思うんだけど。

おまけに、中国では検閲通らなくて上映がかなわないような内容となっているため、資金集めも大変なことになってしまっているようです。短編を短い時間で早撮りをしなければならなかった原因はこの辺にあります。今や香港映画界も、中国マネー無しには厳しいのでしょう。でも、監督には個性を失わずスタイルを壊さず映画を撮り続けて欲しいです。“香港ならでは”であり、“普遍的”でもある人間模様を描き続けて欲しいです。

さて映画の内容ですが、7編のいずれも、どこにでもありそうな話ですが、切り口がいろいろで、ぎょっとしたり笑わせられたり失笑したり、いろいろ考えさせられます。全部、監督の経験と発想から生まれたもののようです。

切ないのは、チャップマン・トウ演じる中年男と買われた女の子の話。二人の間にほのかに流れた感情が、何も語られなくても伝わってくるものがありました。イーソン・チャンは、性衝動にかられる、ありがちな若い男を演じていましたが、オチが怖い。

考えさせられたのは、中学時代の同級生の女の子二人の話。結果的に二人は同じような道をたどるのに、二人の間にある落差は何なんだろう。ある意味こちらも切ない話ではありますが。幸せになったほうの女の子を、今はご無沙汰となってしまったジリアン・チャンが、幸せになれなかった女の子をイザベラ・レオンが演じています。陳百強ファンは、さらに切ない思い出に浸れるかも。

ショーン・ユーは、おバカな新米暗殺者。今時の若者はこんなもの。お仕事より彼女のほうがだいじでしょう。クリスタル・ティンの倦怠妻ぶりは、リアルで引いてしまうかも。

そして、何より怖いのは、エディソン・チャンでしょう。ちょっと汚いお話ですが。もちろん、“画像流出事件”前の出演とは思いますが、“公共道徳”を語る彼に、事件が被って背筋も凍ってしまいます。